場所ではなく、関係性が自己肯定感を育む。大阪「交野こそだちベースtomos」

京阪電気鉄道交野線の終点、「私市駅(きさいちえき)」から歩いて5分ほど。大阪公立大学附属植物園の近く、川や山が近い場所に子ども第三の居場所「交野こそだちベースtomos(ともす)」(以下、tomos)はあります。
建物につくと「おはようございます」と、代表の大島一さんと、穐久宗徳さんがお出迎えしてくれました。

立ち話をしていると、道の前を通る車の運転手さんとも次々に挨拶をするお二人。実は、大阪公立大学附属植物園など交野市内の自然をフィールドに活動する「かたのの森のようちえんいしころえん」があり、「tomos」は保育の室内拠点にもなっているそう。この日も植物園に向かう保護者の方が送迎で行き来をされ、知り合いが通るので挨拶をしていたとのこと。地域に馴染んでいることを実感しながら、建物の中へお邪魔しました。
ひとの「根っこ」である自己肯定感を育む
一般社団法人 根っこわーくすは2017年設立。ひとの「根っこ」である自己肯定感を育みたいと考え、活動を開始した団体です。
「以前は民間の教育団体で働いていました。人間関係トレーニングを提供する教育ファシリテーターとして、学校への出前授業を中心に、子どもの野外教育プログラムの運営や、企業研修をしていたのですが、ひととひとが関わり合う姿をたくさん見てきて、子どもが抱えている課題も、大人が抱えている課題も、突き詰めて考えていくと、抱えている問題の根っこは同じなのではないかと思いました。それは自己肯定感が充分に育まれていないことと、傷ついていることです」(大島さん)

学歴や能力が高い企業人でもしんどさを抱えていたり、自分の存在に自信がなかったりする人がたくさんいることを課題に感じたそう。子どもの頃に自己肯定感を育むことが大切なのではないかと考え、一緒にファシリテーターとして人間関係トレーニングを運営をしていた仲間たちに声をかけて、立ち上げたのが根っこわーくすです。
根っこわーくすが考える自己肯定感とは、どのようなものでしょうか。
「僕らが考える自己肯定感は、ひとと比べて何かができなかったとしても、ひととは違う何かを持っていたとしても、自分は自分で大丈夫と思える気持ちのこと。つまり、適切な行動や能力の肯定ではなく、存在の肯定です」(穐久さん)
そのために一番大切なのは、「自分が自分でいられる居場所の存在」とお二人。失敗してもいい場所、自分を否定されない場所、あるがままに受け止めてもらえる場所、そんな居場所をつくろうと、「イキイキ のびのび しなやかに!」をスローガンに、「ひとの根っこ=自己肯定感を育もう」という理念を掲げて活動を開始しました。
大切なのは建物ではなく関係性
2018年、自分が自分でいられる「居場所」 × 生きるチカラを育む「塾」として、拠点を持たず、さまざまなフィールドで、毎週末開催の「週末いどこ塾」をスタート。自由あそびの中で、自分の「してみたい」を自分で決め、やってみることを大切にしてきました。
スタート当初は参加者が一人だった回もあったそうですが、徐々に参加者が増え、定員の30人を超えてキャンセル待ちが出るほどの人気になりました。
「子どもの居場所というと、建物があるという先入観があります。でも、違う地域や学校、年齢の多様な子どもたちが集まり、自由に過ごしたら、ハードはないけれど、そこに生まれる関係性が居場所になりうるのではないか、という仮説を持っていました。『週末いどこ塾』を続ける中で、建物ではなく、その場でイキイキ過ごすことのできる関係性そのものが子どもの自己肯定感を育むことを実感しました」(大島さん)

その中で培ってきたネットワークやニーズを受けて、2020年、建物取得をきっかけに、交野こそだちベースtomosを開設。現在の場所への移転を経て、2023年11月からは日本財団の助成を受け、建物をリニューアル。子ども第三の居場所として運営してきました。

「『週末いどこ塾』で子どもと関わる中で、今の子どもたちは、自己肯定感が育つための経験が足りていないのではないか、と感じてきました。大人による指示命令や禁止にさらされることが多く、うまくできるよう、失敗しないように過剰に手助けされることで、子ども自身が、自分で選択すること、自分で決めたことをやってみる経験が少ないです。そこで、子どもが主体的にできることとして、『あそぶこと』『甘えること』の2つを中心に、足りていない経験を豊かにできる居場所としてtomosを立ち上げました」(穐久さん)
自分たちで作って食べる「いどこ食堂」
tomosは週3日、10時から19時まで開所。うち1日は、子どもが自分たちで作ってみんなで食べる子ども食堂「いどこ食堂」を運営しています。
この「いどこ食堂」こそ、「tomosらしい関係性が育まれている」と穐久さんは話します。

「いどこ食堂で大切にしているのは、自ら楽しんでやってみること、そして誰一人取り残さずに楽しく過ごせるようにすることです。でも、自分の楽しさだけを優先すると、誰かを取り残してしまうことが起こります。そのバランスをどうとるかは社会で生きていく上でも大事な学びです。子どもたちは日頃からその2つを意識して過ごしています」
例えば、メニューがシチューだった場合、小麦粉や牛乳のアレルギーの子どもは食べられません。子どもたちは料理をはじめる前に、アレルギーを確認する投げかけをして、小麦粉と牛乳を使わないシチューの作り方を調べるところからはじめるそうです。
「特別な材料を買いに行くのではなく、tomosにある材料で工夫して、今いる子どもを誰も排除せずに、自由な発想で作って食べようとしています。いどこ食堂は小さな社会。時にはめんどくさいと思うこともあるみたいですが、主体性と当事者意識を持ち、自分もみんなも楽しめるように行動していますね」
財団の助成期間を終えて
tomosは2026年3月で助成期間を終え、現在はマンスリーサポーターからの寄付を募ることと、事業の見直しをすることで、継続にむけた取り組みをしています。
「『週末いどこ塾』を始めた当初は、自由あそびを喜ぶ子どもが多かったですが、最近は自由であることで困ってしまう子どもも増えてきました。子ども第三の居場所の運営をはじめたことで、以前よりも様々な背景を抱える子どもの利用も増えています。そうした環境の変化の中で、教育のみならず、教育×福祉の概念でtomosを運営しようと方針転換したところです。これからも多様で対等な関りを大切にする居場所であることで、子どもたちの自己肯定感が育つ支援をしていきたいです」(大島さん)
取材:北川由依
「子ども第三の居場所」に興味をお持ちの方は、ぜひ子ども第三の居場所プロジェクトページをご覧ください。